ALBUM REVIEW



宇多田ヒカル

TITLE  First Love 
Released  1999.3.10
SINGLES  「Automatic」「Movin' on without you」「First Love(リカット)」
Evaluation  ★★★★★★★★★★
 860万枚という天文学的売上枚数を叩き出した宇多田ヒカルの1stアルバム。このアルバム
が出た1年前にデビューしたMISIAによって当時のJ-POP界に「R&B」の土台が形作られ、そし
てこの宇多田ヒカルのシングル「Automatic」とこのアルバムによってそのフォーマットは完成し
た、と当方は考えている。その後、彼女らのフォロワーがしばらくの間後を絶たなかったのはご
存じの通り。とはいえ、エポックメイカーである当の彼女にとって「R&B」とは引き出しの一つ、世
間にアピールするあくまで一手段でしかなかったのかもしれないが。
 何と言っても特筆すべきはその若さ。当時弱冠15歳(「Automatic」と「Movin' on〜」の間に
16歳を迎えている)という年齢で詞を書き、曲を書き、歌うということがいかにセンセーショナル
だったことか。最近じゃそういうDIYな若手歌手もさほど珍しくなくなったが、それにしたってこれ
ほど年齢不相応な曲を作り出す10代シンガーソングライターは後にも先にも彼女だけではなか
ろうか。また、詞の方もティーンエイジャーにありがちな「達観してます」的な背伸びした様子も
なく(にも関わらずだいぶ大人びて見えるのだが)等身大な感じだ。思ったことを率直に書いた、
みたいな力の抜け具合である。それでいて大人でも思わず舌を巻くような描写が目にとまる。
 正直、860万枚という華々しい売り上げのわりには地味な曲の多いアルバムだし、時代の勢
いであるとはいえさすがに売れすぎたんじゃ、という気はする。しかし、この860万という数字こ
そが、当時の宇多田ヒカルという非凡なアーティストのデビューの衝撃を象徴していたといって
も過言ではない。このアルバム発売当時中学1年生だった自分にとって、16歳という年齢はだ
いぶ大人に見え、この非現実的な記録も子供ながらに凄いんだな、と思っていたものだが、成
人になり「16歳とは若いんだ」と認知した今、当時以上にその凄さを再認識させられている自分
がいる。この後、マクロ的に見れば極めて短い期間ではあるが、およそ5年ほど続くことになる
空前のR&Bブームの先駆け的な一枚という意味も兼ねて、この時代を象徴するきっての名盤だ
と思うのである。
 最後に。これ、叶月が初めて買ったCDアルバムなんですよね(笑)自分もブームに乗って買っ
ていたうちの一人でした、という。(2008/2/24)
TITLE  Distance 
Released  2001.3.28
SINGLES  「Addicted To You」「Wait & See〜リスク〜」「For You」
 「タイム・リミット」「Can You Keep A Secret?」
Evaluation  ★★★★★★★☆☆☆
 同日発売の浜崎あゆみのベスト「A BEST」との売上決戦などと噂になったアルバムです。
 「First Love」での成功を受け、一躍カリスマ的存在になったことの自覚と自信が感じられる作
品。前作で日本の「R&B」興隆の土台を形成し、あまたのフォロワーを生んだ彼女ですが、この
アルバムではR&Bという枠組みから早くも抜け出しつつある彼女の姿がうかがい知れます。前
作のカラーを引き継いだ「サングラス」「言葉にならない気持ち」や、「歌姫」としての宇多田を望
むリスナーの期待に応えるバラード「Eternally」といった王道チューンもいくつか見受けられるも
のの、「ドラマ」「蹴っ飛ばせ!」ではエレキギターをフィーチャーしており、ロッカー的なポジショ
ンにもトライしています。また、レゲエなのかヒップホップなのかロックなのか、とにかく色んなエ
ッセンスが凝縮された「Parody」(アルバム曲中ではこれが一番面白い)や、「Wait & See」のカ
ップリング曲のリミックス「HAYATOCHI-REMIX」といった変わり種などもあり、「R&Bシンガー宇
多田
」としてのイメージを確立した前作よりも一層バラエティーに富んだ一枚になっています。シ
ングル曲はもちろんのこと、当時の彼女を象徴するような肩肘張らないカラッとしたたたずまいを
感じさせる「DISTANCE」はアルバム曲ながら(のちにバラードリメイクされたものの)代表曲格
の一曲。ちなみに叶月的フェイバリットは、GLAYのTAKUROとの共作でおなじみシングル曲「
イム・リミット
」。「終わりが来るからこそ今を愛せる」という歌詞も当時弱冠17歳のリリックだと考
えると度肝を抜かれます。しかし、これあんまりTAKUROの手がけた跡が見えないのは俺だけ
でしょうか?
 破格の売り上げを記録した前作に対し今作の売り上げは約450万とだいぶ数を落としている
けど、それでも昨今のJ-POPシーンにおいて異例の数値であるのは言うまでもないこと。セー
ルス的にも作品的にも、当時の彼女の勢いを感じるのに十二分な一枚です。この後、結婚した
り離婚したり海外デビューしたりで紆余曲折もあり、作品もどんどんインナーな方向に向かって
いくので、個人的にはここまでが宇多田の「第一期」だと思うのだけど。(2009/5/10)
BACK P-MUSIC TOP