860万枚という天文学的売上枚数を叩き出した宇多田ヒカルの1stアルバム。このアルバム
が出た1年前にデビューしたMISIAによって当時のJ-POP界に「R&B」の土台が形作られ、そし
てこの宇多田ヒカルのシングル「Automatic」とこのアルバムによってそのフォーマットは完成し
た、と当方は考えている。その後、彼女らのフォロワーがしばらくの間後を絶たなかったのはご
存じの通り。とはいえ、エポックメイカーである当の彼女にとって「R&B」とは引き出しの一つ、世
間にアピールするあくまで一手段でしかなかったのかもしれないが。
何と言っても特筆すべきはその若さ。当時弱冠15歳(「Automatic」と「Movin' on〜」の間に
16歳を迎えている)という年齢で詞を書き、曲を書き、歌うということがいかにセンセーショナル
だったことか。最近じゃそういうDIYな若手歌手もさほど珍しくなくなったが、それにしたってこれ
ほど年齢不相応な曲を作り出す10代シンガーソングライターは後にも先にも彼女だけではなか
ろうか。また、詞の方もティーンエイジャーにありがちな「達観してます」的な背伸びした様子も
なく(にも関わらずだいぶ大人びて見えるのだが)等身大な感じだ。思ったことを率直に書いた、
みたいな力の抜け具合である。それでいて大人でも思わず舌を巻くような描写が目にとまる。
正直、860万枚という華々しい売り上げのわりには地味な曲の多いアルバムだし、時代の勢
いであるとはいえさすがに売れすぎたんじゃ、という気はする。しかし、この860万という数字こ
そが、当時の宇多田ヒカルという非凡なアーティストのデビューの衝撃を象徴していたといって
も過言ではない。このアルバム発売当時中学1年生だった自分にとって、16歳という年齢はだ
いぶ大人に見え、この非現実的な記録も子供ながらに凄いんだな、と思っていたものだが、成
人になり「16歳とは若いんだ」と認知した今、当時以上にその凄さを再認識させられている自分
がいる。この後、マクロ的に見れば極めて短い期間ではあるが、およそ5年ほど続くことになる
空前のR&Bブームの先駆け的な一枚という意味も兼ねて、この時代を象徴するきっての名盤だ
と思うのである。
最後に。これ、叶月が初めて買ったCDアルバムなんですよね(笑)自分もブームに乗って買っ
ていたうちの一人でした、という。(2008/2/24)
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