ALBUM REVIEW



the band apart

TITLE  K. AND HIS BIKE 
Released  2003.9.24
SINGLES  「fool proof」「Eric.W」
Evaluation  ★★★★★★★★★☆
 the band apartの1stアルバム。
 彼らのジャンルは一応パンクに分類されるようだが、ジャズやボサノヴァ、ダンスなどといっ
た様々なジャンルの音楽を取り入れた実にユニークな音楽をやっている…とのことですが、あ
えて言っちゃうと個人的にはそれほどに多様なジャンルを取り込んでることは一聴してあまり
強くは感じませんでした。それだけ、多様なジャンルの音楽を「バンアパ」という独自の枠の中
に収められていると感じたからです。(「fool proof」でのボサノヴァの導入はさすがにアレンジ
の乖離を否めないけど…)
この時点ではまだコードギターの主張するところが大きく、様々なジャンルの音楽を包括しな
がらもパンクに分類されていたのはこのことによるところが大きいと感じるのだけど、それでも
この作品から入った人で衝撃を受けたリスナーが後を絶たなかったというのも十分納得のいく
話です。曲展開のまとまり具合は次作に譲るものの、この時点でも十分にセンスを感じられる
楽曲が並んでおります。シングル2曲と、それと肩を並べるバンアパ流ロックナンバー「FUEL
を三本柱に、個人的な選好では他にも「ANARQ」「in my room」と良曲揃い。
 あと、30秒ほどのインタールード曲「ag FM」や、このアルバム発売前に発表されたディズニ
ー音楽コンピレーションアルバム「DIVE INTO DISNEY」に収録された「星に願いを」をシークレ
ットトラックとして持って来たりと、その辺の遊び心がまたパンクっぽかったのかもしれないっす
ね。「ag FM」はニュースキャスターばりにお堅いラジオのDJがガチガチのカタカナ英語で曲紹
介をするシュールな小品。ちなみに「ag」とは彼らの所属する自主レーベル「asian gothic」の
イニシャルをとったものです。多分。「星に願いを」はメロディーもコード展開もかなり自己流に
アレンジされていて、しかもかの夢多きディズニーソングに、後半では狂気の沙汰ともいえる
スクリームボイスが入っております(笑)音量はかなり絞ってありますが…。原曲を意識しなが
ら聴くと結構違和感覚えないこともないので、あえてコレはバンアパのオリジナル曲として聴く
ことをおすすめします。余談ですが彼ら、この後に発売されたこれとは別のディズニーコンピレ
ーションアルバム「MOSH PIT ON DISNEY」で参加したディズニー曲のカバーでもやはり断末
魔の叫び
を披露。ディズニー作品にトラウマでもあるんでしょうか、彼ら…。って、おまけ
の紹介の方が長くなっちゃったな(笑)
 とまぁそんな遊び心も交えつつ、この1stアルバムにて彼らは他の追従を許さないユニークな
音楽を世に堂々提示。しかしそのユニークさはこの段階に甘んじることなく、次作「quake and
brook」へと高めあげられていきます。(2005/7/16)
TITLE  quake and brook 
Released  2005.5.11
SINGLES  「higher」
Evaluation  ★★★★★★★★★★
 ACIDMANの「COLORS OF THE WIND」につられて聴いてみたディズニー音楽コンピレーショ
ンアルバム「MOSH PIT ON DISNEY」に収録されていた「GIVE A LITTLE WHISTLE」で興味を
持ち、sg「RECOGNIZE e.p.」からの1曲「higher」で期待を煽ったthe band apartの2ndアルバム
は、こちらが期待していたものをずっと上回る作品だった。
 今作の内容は前作とはだいぶ耳当たりの違う作風になっている。大ざっぱに言えば、一応
パンクという括りにされつつもお洒落な空気を漂わせていた前作から、よりお洒落度が前面に
押し出された。もはやこれを聴いて、彼らのことをパンクバンドと呼ぶ人はほとんどいないだろ
う。とは言っても、そこいらのバンドとは一線を画すバンドアレンジの発想や、独特の英語詞の
世界観は前作の延長線上にあり、基本的な「バンアパカラー」は変わっていない。
 何より特筆すべきなのは、曲展開や演奏の難解さと楽曲の耳なじみのよさという、同居する
ことの難しい二つの要素が同居していることだ。これはやはり荒井氏のソングライティング能
力の飛躍によるところが大きいと思う。まだバンドのメンバーが手をつける前の生来のメロディ
ーが格段に良くなっている。このことが、今作に収められた楽曲のポップさを増した主たる要因
だろう。さらにそれらを彩るメンバーのアレンジや演奏能力が難解かつテクニカルになったこと
で、作品全体がポップさを保ったままさらにプログレッシブになった。
 そんな珠玉の全10曲の中でも、先行シングルにも収録されたM-8「higher」が群を抜いた存
在感を放っている。求心力が違う。なおこの曲、一見すると「RECOGNIZE e.p.」に収められた
バージョンと同じようではあるが、全編に渡って録り直されている。(おそらく、シングルでは2
曲目と繋がったアレンジであったため、アルバムに収録する際には再録したのだろう)アルバ
ムの落ち着いた雰囲気に合わせてか、全体的に控えめになった印象があるが、それでもアウ
トロに向かってバンド各人の演奏が一体化していくところの躍動感は失われていないし、こち
らの方が荒井氏のボーカルも安定していて、シングルバージョンに決して劣らずの出来だと個
人的には思う。
 こういったコネも何もなしに音楽性一本で臨むアーティストの作品が世間に認められ、チャー
トの上位に食い込むことは、良い楽曲を生み出すことよりもいかにドラマやアニメといった別分
野の商品と提携するか、に依存する傾向の強くなった現代の日本の音楽業界においては実
に喜ばしいことだ。といっても、本人たちはきっとチャートの動きなんてつゆ知らず、ひょっとす
ると新作の出来に歓喜するリスナーさえ眼中にないのかもしれない。でも、そんなところが余
計、いい。あんた達が俺らのことを気にもしないとしても、俺らはすっかりあんた達の虜になっ
たよ、と、そう言いたい次第である。(2005/6/17)
TITLE  alfred and cavity 
Released  2006.10.4
SINGLES  (なし)
Evaluation  ★★★★★★★★★☆
 MOCK ORANGEとのスプリット盤「DANIELS E.P.」を挟んでの3rdアルバム。次のアルバムリリ
ースはもっと2年3年と先のことになると予想していたので、嬉しい誤算でした。どうでもいいけど
1st、2ndに引き続き「and」タイトル。
 基本的に方向性は変わってないです。己が道を行くバンアパサウンド。ただ、これまで以上に
アンサンブルに磨きがかかっている。ひとつ難癖をつけるなら、思わず口ずさみたくなるようなキ
ャッチーなメロディーセンスと、独自のプログレッシブなバンドアレンジとの絶妙なバランスが前
作の魅力だったとすれば、このアルバムではちょっとテクニック面の方に比重が傾いてしまって
いるように感じることだろうか。ラスト曲「KATANA」の隠しトラック(?)なんてその典型では。こ
れ、ファンサービスというより自分たちがやりたいだけでしょ(笑)っていう。
しかしその、純然に「やりたいことを、やりたいようにやっている」感じに、当方は惹かれる。これ
だけ卓越したソングライティングとテクニカルなプレイを披露しながらも、あくまでそれをやってい
る本人らに気負った様子も押し付けがましさもないのだ。歌がいいから、演奏がいいから、とい
うより、そのスタンスそのものがこのバンドの最大の魅力のように思える。
 このアルバムには、どれか一つ飛びぬけて「良い」曲はない。他のレビューを読んでいても、
評者によってフェイバリットはバラバラのようだ。しかし、それこそが「良いアルバム」の理想形
なのではないか。良い曲が多いアルバムほど、聴く人によってお気に入りの曲は偏ることなく
分かれるだろう。ちなみに叶月は「Still awake」「Stanley」「beautiful vanity」が好きです。
(2009/5/10)
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